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K君から電話があった。
"優子さん、今日は僕も一緒に伺います"
ご迷惑お掛けします。よろしくお願いします。
"さっきT君に会って…優子さんが嫌じゃなければT君も引越しのお手伝いで連れてきてもいいですか?"
T君はわたしの同郷。中学生の頃から知ってる人。全く問題ないと話して到着を待つ。
父はずっと玄関にいる。わたしにはリビングに居て顔を見るなと言っていた。
夫"今回はすみませんでした"
玄関先で頭を下げた。
父"子供達が帰るまでに終わらせて"
夫"はい"
わたしは念のためゴミ袋と段ボールを数個準備していた。
やはり引越しにきた夫は手ぶらだった。
途中K君がリビングにくる。
"優子さんすみません。ゴミ袋とか段ボールって頂けないですか?"
引越しに手ぶらでくるってすごいよね。そうなると思ってゴミ袋や段ボール用意してる。わざわざ買ってきた。
あえて大声で言った。K君が申し訳なさそうに頭を下げる。途中、ゴミ袋をわたしはコンビニに追加で買いに行く羽目になる。
リビングに夫がきた
"とりあえず必要なものはとったから、またいる時にくるから"
何言ってるの?わたし今日仕事早退してるの。今日この家から貴方のいるもの全て持って帰ってください。貴方のものを置かれたままだと困るの。貴方はこの家に二度と帰ってこないのだから。レンタカー借りて手ぶらで引越しって、又取りに来るって、そーゆーとこおかしいでしょ。
"てかさ、なんで弁護士雇うの?"
貴方のお母様から言われたの。
"そんな事言うわけねーじゃん。離婚なんか望んでねーのに"
わたしにも母にも言われましたよ。あっ、音声あります。お聞きになります?
"それはあれ…言葉のあや…みたいな…"
とにかく、今日全てお持ち帰りください。
置いていかれたものもは処分します。
貴方にも弁護士がついたのだからそちらにお話はされてください。
"それは、親が!"
貴方の弁護士でしょ。お義母さんの弁護士じゃないでしょ。貴方の依頼なのだからもうこれ以上話すこと出来ない。
途中K君が何度か"優子さん考えなおしましょ"と声をかけてくる。
詰め込んだ荷物を"新居"に運び、父にもう一度取りに来ると言った。
夫の部屋には新品同様のスニーカーやらアウターやらフィギュアが大量にあった。
K君が"今村さんこの辺全て売りましょ。今すぐ!"と有無を言わせず知り合いに連絡をし買取業者を即呼んだ。20万近く貰っていた(父の観察)。
2度目の荷物を積み込み夫は父に"終わりました"と声をかけた。
父"後は全部処分してよいんだよな?そこの自転車もいらないのか?"
"あ、大丈夫〜かな"
父"かな?"
"大丈夫です"
父"じゃあ処分するから。後はあんたも弁護士さんつけた訳だから弁護士さんとしっかり話してきちんとしてくれたらいいから"
"はい。じゃあ、失礼します"
夫は降りて行った。
父が上からレンタカーを眺めながら…K君が何か言ってる。あ、また戻ってきた…
ってとこでインターフォンが鳴る。
父:買い取り業者から貰ったお金持ってくるんだろ。そりゃそうだよな。
夫が玄関にきた。
夫"本当にすみませんでした"
父"やってしまった事は仕方ない。ただ子供の事だけはちゃんとやってくれ"
夫"もちろん"
父"残った荷物は全て処分する。構わないな?"
夫"はい"
父"忘れ物がないかみてこい"
廊下にある子供の写真を見たり中々でてこない。痺れを切らしたわたしは…
利子をそろそろお友達のところにお迎えに行かなければいけないので、忘れ物の確認が終わったらお帰り頂けないですか?
後は全て処分でよいですね?
これだけはのちのトラブルにならぬ様確認するようY先生に言われていた。
夫は帰った。夫の"もちろん"は偉そうだがいつも当てにならない。
夫の部屋はゴミだらけだった。手ぶらで引越しをしてゴミを置いていく。最後までみっともなくとんでもない男だった。調子が悪く玄関先に置きっ放しのスペアの高い高い自転車もいらないからと置いていく。処分にもお金はかかる。お願いしますでもなければ処分で大丈夫かなと言う。
夜K君にお礼の電話をした。
K君はきっとさ、買い取り業者から貰ったお金をわたしにと思ってくれたんだよね。ありがとうね。
"これから優子さん2人育てていかなきゃですから、応援してます"
言いにくいけど、わたし1円も頂いてないから
"え?マジでですか?"
そーゆーとこよね。引越しに手ぶらできて段ボール用意してゴミ袋買いに行って、ゴミ袋代すら払わない。無理だってわかるでしょ。
ゴミだらけの部屋をわたしが片付けなきゃいけない。
きっと最後に父に挨拶に行くよう促してくれたんでしょ。
"あ、はい"
土下座の一つもしないよ、すみませんでしたって頭下げて終わり。本人は謝り倒したくらいの気持ちなんだろうけどね。
色々お気遣い下さったのにごめんね。T君にも今からお礼の連絡するね。ありがとう。
K君がいくら必死に間に入ろうとしても常識もなければ分別もない。本人が反省すらしてないのだから。謝罪もなく"弁護士を雇う"ことを非難するのだから。
T君は…やりっぱなしで帰ってごめんねって。
K君とT君はゴミだけでもまとめようと思ってくれてたみたいだけど…
俺様はそんな事思い付きもしない。残念。
わたしはキッチンで夫の茶碗やお箸など詰めた。お引越し先ですぐに生活できるようにトイレットペーパーとティッシュ、タオルなんかも入れてやった(笑)。キッチン横から洗面所に入り、下着と靴下も全て詰め込んだ。爽快だった。
夫は"一時的な別居"くらいにしか思ってなかった。お義母さんの雇った弁護士は"離婚回避"の為の弁護士だとでも聞いていたのか?
自分が15年以上も住んだ家、出て行くときくらい綺麗にするべきだと思う。
わざわざ後輩を2人も"引越しの手伝い"だと引き連れてきて、手ぶらでくる。荷物をどう運ぶつもりだったのだろう。
夫が退去した部屋は足の踏み場もなかった。漫画や雑誌は散らばり、店を畳んだ時に持ち帰った音楽機材、段ボールに入ったままのCDやDVD、ベランダの植木鉢の中には灰皿のゴミが山盛り。要らない服売れなかった服は置き去り、そのくせ、自分の使い慣れた布団はそのままに押入れのお客様用布団を持って帰る厚かましさ。粗大ゴミ、可燃ゴミ、不燃ゴミ、散乱状態であった。ゴミの処分はお金がかかる。生活費も入れず、自分は20万近く手にして片付け一つせずにゴミ袋代も払わずゴミの処分費も払わず荷物を持って帰った。
全ては一瞬で壊れる。幼い頃から善悪を教えてもらってないのだろうと気の毒にすら思う。
"いるものだけを持って帰る"事が引越しだった。その場にいた誰もが残されたゴミを心配しているのに夫にはそんな事すら気付く常識はなかった。
離婚する事がどんな事か全く理解できていない。夫や義母からすれば、わたしが頭を冷やす別居期間程度にしか思っていなかったのかもしれない。
20年近く築いて来た家族を一瞬にして失った事、それを全く理解できていない。
叔父と弟が…引越しの日に土下座なりのパフォーマンスがあり引越しがなくなるのではないかと…父が怒り夫を殴るのではと…心配していた。
父:"S(兄)が殴るにも値しない人間だと言っていたがその通りだった。これだけの事をして神妙な顔して"すみませんでした"と二回頭を下げただけ。
自分だったら…とは考えにくいけど、息子が同じ事をしたら息子をぶっ叩いて一緒に謝罪をする。結局、優子も眞子も利子もあの一家に大事にされてなかったとはっきり分かって良かった。
夫が父に頭を下げる以上に、父は引越しの手伝いにきてくれたK君とT君に頭を下げていた。
特にK君には子供達がお世話になってきたことも話していたので、ありがとうと何度も伝えていた。わたしの為に父が頭を下げてくれていた。
この先でもこんな風に父は祖父としてだけではなく父の姿を眞子と利子に見せてくれる。
"迷惑はかけていい。心配はかけるな"
眞子と利子の帰宅を待って父は帰って行った。